2026年6月9日。
個展開催を翌日に控えた朝、小糠雨が降っていた。
ギャラリー脇の道路に横付けしたトラックから、十分に梱包した作品をひとつひとつ降ろしていく。重量のある彫刻作品は台車に載せ、慎重に会場内へ運び込む。何度も往復を重ねながら、少しずつ展示空間が形を現していった。
まずは台座の設置。続いて作品の梱包を解き、配置場所へ据え付けていく。平面作品についてはギャラリースタッフの力を借りながら、壁面との距離や作品同士の関係性を確認し、何度も位置を調整した。
展示の最後を締めくくるのは照明である。
光の角度や強さによって、作品の表情は大きく変わる。会場全体の雰囲気を確かめながら微調整を重ね、ようやく展示作業が完了した。
その頃には、日頃より応援してくださっている方々から祝花が次々と届けられていた。会場に彩りを添える花々を眺めながら、多くの人々に支えられてこの日を迎えられたことを改めて実感した。




開幕の日
6月10日。
無事に個展初日を迎えることができた。



会場には多くの来場者が訪れ、作品を前に足を止め、それぞれの時間を過ごしてくださった。
夕方にはヴァイオリニストKao氏による演奏会が開催された。
静謐な空気を湛えた作品群の中に、柔らかなヴァイオリンの音色が響く。美しい調べは空間全体を包み込み、彫刻と音楽が呼応するような特別な時間となった。
作品だけでは生み出せない、一期一会の空間がそこにあった。




演奏会の最後には、後援会の会長久我佳古様より個展開催に寄せての挨拶があった。
作家との出会いから今回の個展実現に至るまでの歩みを振り返る内容であり、会場に集まった人々は静かに耳を傾けていた。
一つの展覧会が開かれるまでには、作品制作だけではなく、多くの人との出会いや支えがある。作家の歩んできた道のりと、それを見守り応援してきた人々の思いが語られたその時間は、展示作品とはまた異なる形で「大地から宙へ」というテーマを感じさせるものとなった。
会場は温かな拍手に包まれ、初日の特別なひとときは幕を閉じた。
会期中の出来事
展示期間中には思いがけない出来事もあった。
地震である。
幸い被害はなかったものの、軽い作品がわずかに位置をずらしていた。改めて作品の状態を確認し、展示環境の安全を改めて点検することとなった。
彫刻作品は静かに空間に佇んでいるように見えるが、その存在は重力や構造、設置環境と常に向き合っている。自然の力の前では、展示という営みもまた決して当たり前ではないことを改めて感じさせられた出来事だった。

それでも会期は続き、多くの来場者を迎えることができた。
振り返れば、この10日間は多くの方との出会いに恵まれた日々でもあった。
久しぶりに再会する方、新たに作品と出会ってくださった方、遠方から足を運んでくださった方。それぞれとの対話は、作家にとって何よりも大きな励みとなった。
そして最終日へ
6月20日。
長いようで短かった展示会も、ついに最終日を迎えた。
この日は梅雨らしい雨となった。
開催前日の搬入もまた小糠雨の中で始まったことを思うと、雨に迎えられ、雨に見送られるような展覧会だった。
午後3時から撤収作業が始まる。再び作業着に着替え、展示空間を少しずつ元の姿へ戻していく。
作品は輸送中に傷がつかないよう、緩衝材で丁寧に包み、搬入時と同じように慎重に梱包する。一つひとつの作品を見送りながら、この10日間の出来事が自然と思い返された。



会場を埋めていた作品が運び出されると、そこには静かな空間だけが残る。
こうして「松原匠秀 彫刻展 ~大地から宙(そら)へ~」は無事に幕を閉じた。
ご来場くださった皆様、応援してくださった皆様、展示を支えてくださった関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。
この展示で得た出会いと経験を糧に、これからも新たな表現へ挑戦してまいります。